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東京家庭裁判所 平成3年(少)105768号 決定

少年 H・Y

(昭47.11.28生)

主文

少年を中等少年院に送致する。

理由

(非行事実)

少年は、公安委員会の運転免許を受けず、かつ、酒気を帯び、呼気1リットルにつき0.25ミリグラム以上のアルコールを身体に保有する状態で、平成3年9月14日午前3時40分ころ、東京都千代田区○○町×丁目×番×号付近道路において普通貨物自動車を運転したものである。

(法令の適用)

無免許運転の点につき道路交通法118条1項1号、64条

酒気帯び運転の点につき同法119条1項7号の2、65条1項、同法施行令

44条の3

(処遇の理由)

1  本件は、少年が、友人の父親所有の普通貨物自動車を無断借用した上、後輩2名を同乗させ、深夜とはいえ、都心まで約25キロメートルも無免許で、かつ、酒気帯び運転したものであって、道路交通上極めて危険な非行である。

2  少年は、中学時代から、不良仲間と原付自転車や自動二輪車を盗んでは無免許運転を繰り返していたが、中学卒業直後の昭和63年5月ころ地元の暴走族「○○○○」に加入、暴走行為を繰り返すようになったため、平成元年4月、自動二輪車の免許を取得したものの、平成3年1月、右免許は取消された。

3  この間、少年は、当裁判所において、昭和63年10月、自動二輪車の窃盗及び同無免許運転で保護観察の、更に、平成3年7月には、平成2年5月及び同年11月の暴走行為(共同危険行為)で、当裁判所調査官の試験観察を経た上不処分(別件保護観察中)の各処分を受けた。少年は、現在保護観察中であり、今年7月には別件保護観察中不処分の処分を受けていたにもかかわらず本件非行を犯したものであって、本件以外に事件送致はされていないものの自動二輪車や普通自動車を常習的に無免許運転していたことが窺われることを考慮すると、少年の交通要保護性は極めて高いといわざるをえない。

4  少年は、IQ=91で中程度の知的能力を有するが、性格的には、気弱で、依存性が強く、中学時代から不良仲間や暴走族仲間と遊興中心の交遊を重ねてきたため、社会規範に対する認識は希薄である。

5  少年の家庭環境をみるに、建設業を営む実父とスナックを経営する実母は、すれちがいの生活が多く、少年もほとんど外食をする等家庭内での接触や対話は乏しい。また、実父は、少年に対し家業の後継者として期待するあまり甘やかし気味である。そのため、家庭が少年に対して有効な保護的機能を果たしているとはいい難い。

6  そこで、少年の処遇を考えるに、上記のとおりの本件非行の内容、非行歴及び処分歴、少年の性格的特徴、保護的家庭環境の欠如等を総合的に勘案すると、このままでは少年が再非行を犯すおそれが高く、社会内処遇では少年の健全な育成を達することが困難と思われる。そこで、この際、少年を少年院に収容し、矯正教育を施す必要があるが、少年は、前回の暴走行為を最後に暴走族からは離脱し、非行傾向も次第に鎮静化の方向にあること、性格的にも著しい偏りがみられないこと、就労関係も安定してきており勤労意欲も認められること、保護者が少年の更生を真剣に願い、少年も基本的には家庭に親和している等保護環境に大きな問題が認められないこと、本件での逮捕、観護措置等を経て少年自身反省の態度が顕著であること等の諸事項を考慮すると、少年の更生のためには、短期で、かつ、開放的な矯正教育が適すると考え、今回は特修短期処遇を勧告する次第である。

よって、少年法24条1項3号、少年審判規則37条1項、少年院法2条3項を適用して少年を中等少年院に送致することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 小林康男)

処遇鑑別所〈省略〉

少年調査票〈省略〉

鑑別結果通知書〈省略〉

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